#「いとしい」に傍線]と言ふやうな意味ですから、さうすると同じ言葉であるけれども、さう言ふ風に意味が変つて行くんです。ですから、どうもその間に調和を求めまして、嫌だと言ふ意味と、いとしい[#「いとしい」に傍線]と言ふ意味との中間を歩くやうなものが、物語や日記等に沢山出てゐる。それを我々が今日見ますと言ふと、いとしいとも釈けるし、嫌だ、嫌ひだとも釈けるのですけれども、昔の人はその間の考へ方と言ふものを、見つけてゐたんです。つまり、さう言ふ言葉が使はれてゐる時代が過ぎ去つて、忘れられてしまふと言ふと、もう、さう言ふことは考へられぬのと同じ事です。我々が書物を持たなくても、幸にその言葉の出来た時分に我々が生きてをつたら、さう言つた言葉ははつきりしてをりますね。
このうちでも、私共とそんなに年齢の変らないお方は御記憶でせう、譬へば、はいから[#「はいから」に傍線]と言ふ言葉です。今ははいから[#「はいから」に傍線]と言ふ言葉は賞める言葉ですね。今では、もだあん[#「もだあん」に傍線]・すまあと[#「すまあと」に傍線]・しいく[#「しいく」に傍線]などゝ言ふ言葉であらはしてゐて、はいから[#「は
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