出て来るいとし[#「いとし」に傍線]と言ふ言葉、我々の使つてゐるおいとしい[#「おいとしい」に傍線]と言ふ言葉、と同じ意味に、多く使つてゐる。つまり、いとほし[#「いとほし」に傍線]と言ふ形が、いたはし[#「いたはし」に傍線]と言ふ形から影響を受けて、そつちの方に引張られて行つた、つまり、いたむ[#「いたむ」に傍線]を語根にした言葉に惹かれて行つたのです。それで、同じ時代の言葉でも、いたはし[#「いたはし」に傍線]といとほし[#「いとほし」に傍線]と、同義語が並んでゐる訣です。この様に、いたはし[#「いたはし」に傍線]と言ふ様な意味に引張られて、いとし[#「いとし」に傍線]と言ふ意味に使はれる一方には、いとはし[#「いとはし」に傍線]と言ふ言葉と同じ様に嫌だと言ふ時にも使つてをるのです。けれどもしまひには、だん/\時代が進むと言ふと、いとはしい、嫌だと言ふ意味はなくなつてしまつて、第二義の方にずつと這入つて行つてしまふ。併し、平安朝で見ますと、第一義が嫌だと言ふ意味なのか、第二義か第三義か知りませんが、兎に角、引きずられてゐる言葉、外の方にかぶれて、引きずられて行つた言葉が、いとしい[
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