生活では、言語の生滅・音韻の転訛が甚しい為に、叙事詩の中の用語の死語となる事が速い。さう言ふ点からも、合理的の解釈を加へる所から、発音変化や、文句の※[#「てへん+纔のつくり」、463−11]入・改竄などが、無意識の間に行はれる。又一方さうした心理のはたらかなかつた部分などは、奈良朝或は其以前既にわからぬ文章としてそのまゝ伝へられたものもある。最後の章に古代文章の解剖を試みて置いた。其を見れば、口頭文章の伝承の真の姿が訣つて貰へる事と考へる。
叙事詩の変化の経路はこの外に、尚有力な道筋がある。別種の叙事詩を誤解或は記憶違へから併合する事がある。とりわけ甚しいのは、古い叙事詩ほど一人称表現をとる為に文の主人公の名を文章の中に表さぬ所から、主人公が入り替る場合も出て来る。神の叙事詩が、人間の英雄の物語と伝へられる様になつた事もある様である。
では、古代叙事詩には、人の作為を加へたものがなかつたか。
神授の叙事詩の外に、人作のものもあつた事が想像せられる。
文字の利用せられなかつた時代、文字が来ても其権威を感じる事の浅かつた時代――これは、かなり後まで続いて居た――国家の永続に自信のなかつた
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