、わびしさ、やるせなさを用語例としてゐる。だが「経《フ》る」は現状のまゝ、時の経つ事になる。
ながめ[#「ながめ」に傍線]は、ながめいみ[#「ながめいみ」に傍線]から出て固定した語で、五月の「雨期虔《アマヅヽ》み」といふ語がある以上、ながめいみ[#「ながめいみ」に傍線]は、霖雨期に当つての、禁欲・不外出のつれ/″\を思ひ沁む、成年男子の毎年の経験から来て、ながめ[#「ながめ」に傍線]と略しても訣る程、広く久しく用ゐられて居た様である。
古事記に、ながめ[#「ながめ」に傍線]の略形を使うてゐるのに、万葉にながめいみ[#「ながめいみ」に傍線]を使うたのは、年代の上に、異な考へを持つかも知れぬ。が、此語の出た万葉の竹取翁の長歌などは、奈良朝初期、或は藤原朝の儒者の手になつたものと考へてもよいのだから、古事記の此条の原文が、口唱し始められた時代よりは遅れて居るかも知れぬ。強ちに万葉の方の語を新しく拗曲した、変態のものとは言へぬ。
藤原・奈良の間には、ながめいみ[#「ながめいみ」に傍線]とも、ながめ[#「ながめ」に傍線]とも言うて居たのであらう。それが平安期に入つてながめ[#「ながめ」に傍線]ば
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