ゐると言ふ伝承は、意外な程広く、多く語られてゐる。其は、成年戒を受けた時の印象から出た言ひ習しらしい。
又一方、神人たる資格の有無は、男精に特殊な形を備へて生れるものとも考へられたかも知れない。其しるし[#「しるし」に傍線]の特徴を言ふ根本の理由は、成年戒を受けないで、神人の資格なしに死んだ者は、死者の霊の到り集つてゐる彼岸の理想国、常世に行く事が出来ない。成年戒を授かつた者は、神となれる神聖なる神格を受けたのである。受戒期間は山に籠つて、花かづらをする。其は女もした。
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はね蘰《カヅラ》 今する妹をうら若み、いざ、率《イザ》川の音のさやけさ(万葉巻七)
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此蘰の花草が、神人となつたしるし[#「しるし」に傍線]で、兼ねて一般成年男子の神事奉仕の際の斎みのしるし[#「しるし」に傍線]となるものである。だから受戒しない人の葬式には、花を摘んで、棺や頭陀袋に入れる風の、処々にある訣が知れる。此花蘰が、支那伝承の端午の信仰と合体して、菖蒲鉢巻が、少年の頭に纏はれる風を生じたのであらう。
       雨づゝみ・長雨斎み
万葉にある「雨づゝみ」「長雨
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