対に、実生活に移されたり、実生活様式と合一したりした物なる事を考へねばならぬ。殊に、其生活から、庶民の生活を抜き出す事の出来ぬ、高級神人・巫女の上に限つた伝承である事は、勿論である。伝承に出る至上階級の行動も、神・人の区別がない。だから、人の世の事と思へば、神話であつたりする。草刈り・野焼きの歌なども、すべて経験から出てゐるとは言へない。歌論の上の慣例を追うたに止る事の多い事を思ふべきだ。
此歌の捉へ処のない様に見えるのは、或は既に、神の真言化して考へられ、呪文とせられてゐたのかも知れぬ。
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天なる ひめ菅原の茅な刈りそね。みなのわた かぐろき髪に 芥し着くも(万葉巻七)
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譬へば、此歌なども、叙事詩から断篇化した歌らしい。軽[#(ノ)]大郎女を憐んだ歌だらうと言ふ人もある程だ。処が、此旋頭歌は、呪文に使はれたものと見る方がよさゝうだ。すると「おもしろき」も野焼きの火に過ちなき様になど言ふ原義を没した用途を持つてゐたのかも知れぬ。
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妹なろが つかふ川門《カハト》のさゝら荻《ヲギ》 あしとひと言《コト》 語りよらしも(
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