、此行事に関するあらゆる記憶も、変化して、こんな類型を作る一因となつた事であらう。
右の順序を逆に言へば、古代邑落の男女媾会の一方法が知れる。野山を刈り焚いて新神を作つた風。其と対等の原因として、精霊の所有なる未開拓地を墾《ひら》く方式。此が双方から歩みよつて、叙事詩では、大国主及びやまとたける[#「やまとたける」に傍線]の焼け野の難の話になつた。其呪詞の一部が「さねさし相摸《サガム》の小野《ヲヌ》に燃ゆる火の、炎中《ホナカ》に立ちて、とひし君はも」(記)となり、或は「萱な刈りそね」「野をば勿《ナ》焼きそ」などゝ、夜の訪れ以外に、昼も野山で会ふといふ結婚法と相互に影響し合うて、実生活の上の顕著な様式を形づくつた。
更に三転して、草野にこもる男女と、焼き囲む野火との聯想が、小説的になつて、民謡に栄え、更に文学にまでも入る事になつたのである。万葉では既にさうである。だから実生活とばかりも言へないのである。誇張と空想と芸術化とが加つてゐるのだ。必しも、歌が生活の反映であつたとは言へない。
すべて伝承の詞曲の上の事を、悉く実在した事と見る事は出来ない。多くは、詞曲にのみある事であつたり、其が反
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