因があるのだ。

     三

草木を伐り、野を焼くを嫌ふ原因は、まだ外にもある様だ。
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山城の久世の社に 草な手折《タヲ》りそ。しが時と、立ち栄ゆとも、草なたをりそ(万葉巻七)
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此は禁忌である。かうした神の標《シメ》野を犯す事を忌むことの影響もある。其に今一つ考へられるのは、木を伐り出す時の「山口祭り」の様に、野を占めて焼く時の呪詞があつたらうといふ事だ。御県《ミアガタ》の神の祭りに似て、尚すこし畏怖の情の深い、野の神の祭りが行はれたのであらう。のづち[#「のづち」に傍線]は野雷《ノヅチ》で、野の蛇神である。かやのひめ[#「かやのひめ」に傍線]は葺草場の神であらう。其外色々ゐる神に対つてする呪詞が、必、あつて忘却せられたのであらう。
かうした野の神々を鎮圧するのが、村に対する山の神の務めである。さうした呪詞の断篇化し、又は、拗曲したのが、更に時代生活に合理化せられて行つた。草木を伐り、野を焼くのを忌むといふに適した恋愛境遇に一致させて来たのらしい。さなくても、田畠・移動耕地の精霊は草を刈りつめられ、火に焚かれて、神となる風であつたから
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