日《カムナホビ》は、祝詞の神である。神授と信じてゐる伝来の祝詞にも、読んでゐる中に、誤りが出て来るかも知れない。誤りがあると、神から、禍ひが下される。
禍ひを下す神を、大禍津日神《オホマガツヒノカミ》・八十禍津日神《ヤソマガツヒノカミ》といひ、神官は嫌うてゐるが、実は大切な神なのである。神道では、此神に対する理解が、変つて来てゐるが、神伝来の祝詞、其に答へる寿詞の誤りを、指摘する神である。今ではどうかすると、祝詞は儀式の上で、なければならないものだから、単に読むものだと考へられさうであるが、昔は、神の言葉と信じ、寿詞では、自分等の思ふ所を述べたのである。
人間に伝はつてゐるのだから、間違ひがある。神に間違うたことを言ふと、罪せられる。誤りがあつた場合に、その誤りを指摘するのが、大禍津日神である。其を、対句式に表現した結果、その性格に分裂を起して、八十禍津日神と言うた。其を後には、悪魔のやうに考へた。誤りの無いやうに、直して貰はねばならない其神が、大直日神・神直日神であつて、神道では、別々の神のやうに考へてゐるが、此は調子をとる為の、対句から発生したものである事は、禍津日神におけると同様
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