寿詞《ヨゴト》を奉る。此は、天皇の齢《ヨ》を祝福すると同時に、服従の誓ひを新しくすることである。延喜式祝詞では、祝詞・寿詞の意義が、混同して用ゐられてゐる。
日本の儀式は、同じ事を幾度も繰り返す。其は、たゞ繰り返すのではなく、平易化して複演するのである。宮廷の元旦朝賀の儀式に、寿詞を奏上すると、寿詞なる口頭の散文に対して、今一段くだけた歌なるものを、複演奏上する。歌は、寿詞から分化したもので、寿詞の詞の部分ではなく、独白の文章、自分の衷情を訴へ、理会を求める部分の集つて、分離して来たのが歌である。即、寿詞奏上の後、直会の意味に於て歌会をする。
今の神道では、それが大分くだけて、正式の祭りの後に、神社で直会《ナホラヒ》といふものをする。其が、今は殆、宴会とくつついてゐるが、昔は神まつり(正式儀式)・直会・肆宴《トヨノアカリ》と三通りの式が、三段に分れてゐた。この三通りの式を、次第にくだいて行ひ、直会では歌、肆宴では舞ひや身ぶりが、主になつてゐる。
朝賀の式が終つた後に、直会をする。この直会に当るものが、御歌会であつた。宮廷では、早く其を大直日《オホナホビ》の祭りと言うてゐた。大直日・神直
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