。其原理を導き出すのには、今の方法では駄目で、今一度、昔に還つて、省みなければならない。
日本の神典を見て、一番困ることは、神と神でないものとの区別が、明瞭でない事である。古事記その他の書物に現れた、霊的な人々の記録は、同じ時代の事であると考へては、何時まで経つても、ほんとうの事は訣らない。古事記にしても書きとめられた時より、五百年以上も前の事があると見て、はじめて訣つて来る。古事記の中には、神になり切らない、霊的なものと、神になつたものとがある。
日本の信仰には、どうしても、一種不思議な霊的な作用を具へた、魂の信仰があつた。其が最初の信仰であつて、其魂が、人間の身に著くと、物を発生・生産する力をもつと考へた。其魂を産霊《ムスビ》と言ふ(記・紀)。産霊は、神ではない。神道学者に尋ねても、産霊神と、神とを一処にする人は、まづあるまい。此神は無形で、霊魂よりは一歩進んだもので、次第に、ほんとうの神となつて来るものである。
日本の神典を見ると、神とたま[#「たま」に傍線]とを書き分けてゐるが、此には理由がある。不思議な霊的な魂の外に、人間に力を与へてゐた魂で、其人の死後も、個人のもつてゐた魂
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