民間年中行事をつくる様になつた。
譬へば、大晦日と元日、十四日年越しと小正月(上元)、節分と立春との関係を見ると、元々違つた其々の日の意味が、互に接近して考へられて来たのは事実である。
私は暦の上に、元日と立春との区別の茫漠としてゐた昔語りを試みる。

     三 夜牀の穢れ

地震以後「お宝々々」「厄払ひませう」も聞く事稀に、春も節分も寂しくばかりなつて行く。「生活の古典」が重んぜられてゐた東京の町がかうでは、今の中に意義を話して、偲びぐさとしたくなる。
宝船は、初夢と関聯してゐる為に、聡明な嬉遊笑覧の著者さへも、とんだ間違ひをして、初夢を節分の夜に見るものを言ふとしてゐる。元は、宝船が役をすました後に現れる夢を、初夢と言うたらしいのである。だが、暦法のこぐらがり[#「こぐらがり」に傍点]から、初夢と宝船とが全然離れ/\になつたり、宝船その物が、好ましい初夢を載せて来るものゝ様に考へ縺らかしたりして了うたのであつた。
初夢と宝船とに少しの距離を措く必要があつたからこそ、江戸の二日初夢などの風が出来た。除夜の夢と新年の夢とには、区別を立てねばならなかつた。除夜の夢の為の宝船が、初夢と
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