、即かず離れないで、歩み続けなければならないのは、記録の信じられない時代を対象とする学問の採るべきほんとうの道である。
暦の話ばかりでなく、古代を考へるものが、ある年数を経た後世の合理観を多量に交へた記録にたよる程、却つてあぶないものはない。私は大体見当を、大昔と言ふ処に据ゑて話してゆきたい。そこには既に、明らかに国家意識を持つた民もあれば、まだ村々の生活にさへ落ちつかなかつた人々もあつたものと、見て置いて頂きたい。強ひて問はれゝば、飛鳥の都以前を中心にしてゐるのだが、時としては飛鳥は勿論、藤原の都の世にも、同様の生活様式を見出す事もあり、更にさがつて奈良の時代にも、古代生活の俤を見る事があらう。私の言ひ慣れた言ひ方からすれば、即、万葉びと以前及び万葉人の生活に通じて、古い種を択り分けながらお話する次第である。
陰暦・陽暦・一と月遅らし[#「一と月遅らし」に傍点]と、略《ほぼ》三通りの暦法をまち/\に用ゐてゐる町々村々が、境を接して居ると言ふ現状も、実は由来久しい事なのである。暦法を異にした古代の村々が、段々帰一して来る間に、其々の暦に絡んだ風習が、互にこんがらかつて来て、極めて複雑な
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