たり[#「しきたり」に傍線]として、後代に、道徳・芸術、或は広意義の生活を規定したと見て、よいと思ふ。
日本の古代生活は、此まであまりに放漫な研究態度でとり扱はれて来た。江戸時代に、あれまで力強く働いた国学の伝統は、明治に入つて飛躍力を失うた。為に、外側からの研究のみ盛んに行はれた。古代人の内部の生活力を身に動悸うたせて、再現に努めようとする人はなくなつた。数種の文献に遺つた単語は、世界の古国や、辺陬の民族の語彙と、無機的に比較研究せられた。此は伝統的事業を固定させてゐた私どものしくじりであつた。
私どもはまづ、古代文献から出発するであらう。さうして其註釈としては、なるべく後代までながらへてゐた、或は今も纔かに遺つてゐる「生活の古典」を利用してゆきたい。時としては、私どもと血族関係があり、或は長い隣人生活を続けて来たと見える民族のしきたり[#「しきたり」に傍線]、又は現実生活と比べて、意義を知らうと思ふ。稀には「等しい境遇が、等しい生活及び伝承を生む」と言ふ信ずべき仮説の下《モト》に、かけ離れた国々の人の生活・しきたり[#「しきたり」に傍線]を孕んだ心持ちから、暗示を受けようと考へてゐ
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