恋の浄土としての常世とはなつた過程は、にらいかない[#「にらいかない」に傍線]の思想の展開が説明してくれて居る。海岸に村づくりした祖先の亡き数に入つた人々の霊は、皆生きて遥かな海中の島に唯稀にのみあるものとせられてゐたのである。さうして、児孫の村をおとづれて、幸福の予言を与へて去る。その来るや常世浪に乗りて寄り、去る時も亦、常世浪に揺られて帰るのである。
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時に、天照大神、倭姫[#(ノ)]命に誨《ヲシ》へて曰く、是の神風の伊勢の国は、常世の浪の重浪帰《シキヨ》する国なり。傍国《カタクニ》の美国《ウマシクニ》なり。是国に居らむと思ふ。(日本紀)
子らに恋ひ、朝戸を開き我が居れば、常世の浜の浪の音聞ゆ(丹後風土記逸文)
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此等は、如何にも極楽東門に向ふと言ふ様な感じであるが、更に語の陰にある古い印象を窺ふと、神の徂徠の船路を思はせるものがある。すくなひこなの神[#「すくなひこなの神」に傍線]は此浪に揺られて、蘿摩《カヾミ》の実の皮の船に乗つて、常世の国から流れ寄つた小人《ヒキウド》の神であつた。さうして去る時も粟島の粟|稈《ガラ》に上つて稈に弾
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