へたものであらう。此常夜は、ある国土の名とは考へられて居なかつたやうに見えるが「とこよ」の第一義だけは、釈《とけ》る様である。併し尚考へて見ると、単純に「常夜の国に行つてゐる」やうなあり様と言ふ感じを表す語であつたかも知れない。さう思へば、古事記の「爾《カレ》高天原皆暗く、葦原中つ国|悉《スデ》に闇し。此に因りて常夜往く[#「常夜往く」に傍線]……」とあるとこよゆく[#「とこよゆく」に傍線]も甚《はなはだ》固定した物言ひで、或は古事記筆録当時既に、一種の死語として神聖感を持たれた為に、語部の物語りどほりに書いたものであらう。第一義としての常闇の国土なる「とこよ」が、祖先の考へにあつた事は想像してよい。

     一一 死の島

宝船の話から導いた琉球宗教の浄土にらいかない[#「にらいかない」に傍線]が元、死の島であつたことを説いた。私どもの国土に移り住んだ祖先のにらいかない[#「にらいかない」に傍線]は、実はとこよのくに[#「とこよのくに」に傍線]と言ふ語で表されてゐたのであつた。村々の死人は元より、あらゆる穢れの流し放たれる海上の島の名であつたのである。其恐しい島が、富みと齢乃至は
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