《ナカトミ》・斎部《イムベ》の官人二人、人数引き連れて陰明門におとづれ、御巫《ミカムコ》(宮廷の巫女)どもを随へて、殿内を廻るのであつた。かうした風が、一般民間にも常に行はれてゐたのであるが、事があまり刺戟のない程きまりきつた行事になつてゐたのと、原意の辿り難くなつた為に、伝はる事尠く、伝へても其遺風とは知りかねる様になつて了うてゐたのである。此よりも古い民間の為来《しきた》りでは、万葉の東歌《アヅマウタ》と、常陸風土記から察せられる東国風である。新嘗の夜は、農作を守つた神を家々に迎へる為、家人はすつかり出払うて、唯一人その家々の処女か、主婦かゞ留つて、神のお世話をした様である。此神は、古くは田畠の神ではなく、春のはじめに村を訪れて、一年間の予祝をして行つた神だつたらしい。
此まれびと[#「まれびと」に傍線]なる神たちは、私どもの祖先の、海岸を逐うて移つた時代から持ち越して、後には天上から来臨すると考へ、更に地上のある地域からも来る事と思ふ様に変つて来た。古い形では、海のあなたの国から初春毎に渡り来て、村の家々に一年中の心躍る様な予言《カネゴト》を与へて去つた。此まれびと[#「まれびと
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