る者は、一つに扱うて居る場合が多い。単に神の住みかと言ふだけではない。悪魔の世界なる内容も持つて居る。神・悪魔・死霊など、其性質に共通した点が尠くない。其著しい点は、皆夜の世界に属する事である。鶏鳴と共に顕明界《ウツシヨ》に交替するからだ。一番鶏に驚いて事遂げなかつたのは、魔や霊に絡んだ民譚だけではない。神々すら屡鶏の時をつくる声の為に、失敗した事を伝へてゐる。尊貴な神にすら、祭りの中心行事は、夜半鶏鳴以前に完へる事になつて居る。わが国の神々の属性にも存外古い種を残してゐるので、太陽神と信じて来た至上神の祭りにすら、暁には神上げをしなければならなかつた。古今集大歌所の部と、神楽歌とに見えた昼目《ヒルメノ》歌を見れば、祭りの暁の気持ちは流れこむ様に、私どもの胸に来る。昔になるほど、神に恐るべき要素が多く見えて、至上の神などは影を消して行く。土地の庶物の精霊及び力に能はぬ激しい動物などを神と観じるのも、進んだ状態で、記録から考へ合せて見ると、其以前の髣髴さへ浮んで来るのである。其が果して、此日本の国土の上であつた事か、或は其以前の祖先が居た土地であつた事かを疑はねばならぬ程の古い時代の印象
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