如くなれども、磯より西の方に、窟戸あり、高さ広さ各六尺許。窟内に穴あり。人入ることを得ず。深浅を知らず。夢に此磯の窟の辺に至る者は、必死す。故に俗人古より今に至る迄|号《ナヅ》けて黄泉《ヨミ》の阪|黄泉《ヨミ》の穴と言へり。
[#ここで字下げ終わり]
夢にでも行けば死ぬと言ふので、正気では、巌の西に廻らないのである。(伯耆の夜見島大根島などを夜見の国・根の国に聯想した先人の考へも、地方《ヂカタ》から近きに過ぎる様に思はれるが、島を死の国と見た処は、姑《しば》らく棄て難い。海上遥かな死の島への道が、海底を抜けて向うへ通じて居ると言ふ考へが一転すると、海底にある国と言ふ様に変る。出雲風土記のも、或はさうした時代の考へ方に属してゐるのかも知れない。大祓詞の方も、底の国といふ語に重きをおいて考へれば、海中深く吹き込むと説ける。併し又、遠隔した死の島へ向けて吹きつけるともとられる様で、どうでも解釈は出来る。何にしても、出雲びとも、大倭《ヤマト》びとも、海と幽冥界《カクリヨ》とを聯絡させて考へて居たと思うてもよい様である)。

     七 楽土自ら昇天すること

奄美大島から南の鹿児島県下の島々
前へ 次へ
全36ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング