せて流す様式が、祓の系統にあると言ふ事は、其行き着く土を考へに持つて居るのである。「かくかゝ呑みてば、気吹戸《イブキド》にいますいぶきどぬし[#「いぶきどぬし」に傍線]と言ふ神、根《ネ》の国・底《ソコ》の国にいぶき放ちてむ。かくいぶき放ちてば、根の国・底の国にいますはやさすらひめ[#「はやさすらひめ」に傍線]と言ふ神、持ちさすらひ失ひてむ」とある六月晦大祓の詞は、必しも此土に居た古代人の代表的な考へと言ひきる事も出来まいし、又祝詞の伝誦が、久しく口頭に委ねられて居る間の自然の変化や、開化時代相応の故意の修正のある事が考へられるのであるから、多少注意はいる。が、日本の宗教が神学体系らしいものを持つて後も根の国を海に絡めて言つて居るのは、唯の平地や山辺から入るものとし、単に地の底とばかりで、海を言はぬ神話などよりは、形の正しさを保つて居るものと言ふ事が出来る。出雲風土記出雲郡宇賀郷の条に、
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即、北海の浜に磯《イソ》(大巌石の意)あり。名はなつきの磯[#「なつきの磯」に傍線]と言ふ。高さ一丈許。上に松の木を生ず。磯までは、邑人朝夕に往来する如く、又木の枝も人の攀引する
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