盆のまつ白な月光の下を、眷属大勢ひき連れて来て、家々にあがりこむ。此は考位《ヲトコカタ》の祖先の代表と謂ふ祖父《オシユメイ》と、妣位《ヲンナカタ》の代表と伝へる祖母《アツパア》と言ふのが、其主になつて居る。大人前《オシユメイ》は、家人に色々な教訓を与へ、従来の過ち・手落ちなどを咎めたりする。皆顔を包んで仮装してゐるのだから、評判のわるい家などでは、随分恥をかゝせる様なことも言ふ。其家では、此に心尽しの馳走をする。眷属どもは、楽器を奏し、芸尽しなどをする。
此行事は「あんがまあ」と言ふ。語原は知れぬが、やはり他界の国土の名かと考へられる。私はある夜此行列について歩いて、人いきれに蒸されながら考へた。有名な「千葉笑ひ」、京都五条天神の「朮《ウケラ》参り」の悪口、河内野崎参りの水陸の口論、各地にあつたあくたい[#「あくたい」に傍線]祭りは、皆かうした所に本筋の源があるのではなからうか。さう思つてゐる中に、大人前《オシユメイ》がずつと進んで出て、郡是として、其年から励行する事になつた節約主義を、哄笑を誘ふ様な巧みな口ぶりであてこすつた。村の共通な祖先が出て来て、子孫の中の正統なる村君のやり口を
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