《イナミ》[#(ノ)]島といふ島に逃げ込んだ。「否む」といふ言葉が「隠れる」といふ意味であるのは、其|印南《イナミ》[#(ノ)]島に隠れて居つたからといふ伝説がある位であります。其を犬が其島の方を向いて吠えたので、そこへ迎へに行つて、始めて自分のものにせられたといふ事があります。此は昔の女は男を嫌つて、逃げ廻つたものだといふ風に、解釈されて居ります。それから又同じ景行天皇が美濃の国の兄《エ》姫・弟《オト》姫、其|兄《エ》姫を手に入れようとせられたが、兄姫は弟姫を自分の代りとして召されるやうにと言うて、弟姫をさし上げた。かういふ様に、其に似た話が沢山ありますが、此は、処女が男を嫌つたのではない。たゞ、古事記・日本紀に書かれた解釈が違つて居るのです。実は其らの処女は、みな神に仕へて居る処女なのです。
先に申しました通り、或国、或は或村の家の歴史なり、叙事詩なりに残されてゐる其国・其村の頭の家の処女の場合は、皆吾々の考へる普通の処女の様なものではなく、大抵皆神に仕へて居る処女、即巫女である。そして、其処女が神に仕へる力を利用して、其処女の兄なり、親なりが、国を治め、村を治めて居る。此が国を治
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