扮装する義務と、権利とがあつた訣なのです。一年の間に其神が、村の家々に来り臨む日がある。其日に神に姿をやつして、村の家々へ行く。さうすると巫女なる女が残つて居て、即まれびと[#「まれびと」に傍線]を接待して、おろそかにせないのです。つまり神が其家へ来られたのを饗応する。
ところが段々其意味が忘れられて来まして、唯の若い衆である所の男が――神の資格を持たない平生の夜にも、――処女のある家には、通ふといふ風習に変つて参りました。だから、単なる村の人口を殖《ふや》さうなどゝいふ考へから出た交訪ではなくて、厳粛な宗教的の意味から出発してゐたのです。若い衆は神の使ひ人、同時にある時期には、きびしい物忌みをして神になるものといふ信仰から出た制度であります。其で、神が来臨する祭りの夜は、男は皆外へ出払つて居つて、巫女たるべき女が残つて居る。さうした家々へ神人が行く。饗応をも受ければ、床も共にして、夜の明けぬ前に戻る。さうして若《も》しも其晩子が寓《ヤド》ると、言ふまでもなく神の子として、育てたのです。決して人間の胤と考へない。
四
さうした形の外に、まだ神秘な一夜の神婚の場所がありまし
前へ
次へ
全22ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング