初夜の家にとまる。さういふ証拠は沢山あります。
人の妻になる以前は、処女はどうであるか。厳重に貞操を守つて居つたかといふと、此は守つて居つたとも言はれ、守つて居らなかつたとも言へる。近頃まで村の娘といふものは、村中の若い衆の共有だといふ様に考へて居りました。そして外の村の者が侵入すると、ひどい目に遭はせる。処女のある家へは、自由に泊りに行き、後には隠れ忍んで行く。此は半分大びらで、夜は男が来るのを許さなければならなかつたのです。此は維新前、或は其後も田舎では続いて居たやうです。
其がどこから来たかといふと、此は神祭りの時に、村の神に扮装する男が、村の処女の家に通ふ。即、神が村の家々を訪問する。その時は、家々の男は皆出払つて、処女或は主婦が残つて神様を待つて居る。さうして神が来ると接待する。つまり臨時の巫女として、神の嫁の資格であしらふ。「一夜妻《ヒトヨヅマ》」といふのが、其です。決して遊女を表す古語ではなかつたのです。此は語学者が間違へて来たのも無理はありません。一夜だけ神の臨時の杖代《ツヱシロ》となる訣なのです。
村の若い男――一定の年齢の期間にある男、前に言つた元服をした男は、神に
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