た。神祭りの晩には、無制限に貞操が解放せられまして、娘は勿論、女房でも知らぬ男に会ふ事を黙認してゐる地方がありましたし、まだ、風習のなくなりきらない村もあるやうです。其は蛮風といへば蛮風ですが、其だけの歴史的基礎があるのです。古代信仰の変形が存してゐる訣なのです。結婚以前に、それ/″\神が処女の処に来る風が、初夜権以前に重つて来た次第です。其で、もう一度正式に神の試みがある様になつたものと思はれます。其で結婚の資格が出来るのが、原則だつた様です。此事が解せられぬと、古事記・日本紀、或は万葉集・風土記なんかをお読みになつても、訣らぬ処や、意義浅く看て過ぎる処が多いのです。
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誰《タ》そや。この家《ヤ》の戸《ト》押《オソ》ぶる。新嘗《ニフナミ》に、我が夫《セ》を行《ヤ》りて、斎《イハ》ふ此戸を(万葉集巻十四)
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万葉集の此歌は、女房が、巫女をする場合です。
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にほとりの 葛飾早稲《カツシカワセ》を贄《ニヘ》すとも、彼《ソ》の愛《カナ》しきを、外《ト》に立てめやも(万葉集巻十四)
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それから又斯ういふ
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