い前は、性の方面は解放せられて居ませんでした。只今でも、地方によつては、結婚以前の者、或は成年式を経ぬ人間と、結婚以後、或は一人前の男になつた後の者とでは、其扱ひ方が別なのです。壱岐の島へ行つて見ますと、未婚の男が亡くなると、幾つになつて居ても、首に頭陀《づだ》袋を下げて、墓へ送る。さうして途々摘んだ花を、其袋に入れてくれる。懐しいあはれな風であります。この二段の元服の式が、後世大抵一回きりになつてしまつた様ですが、今も尚俤だけは残して居る処もあります。平安朝までは、其でも稍《やや》明らかに、二度の元服式があつた様に見えます。精通期以前の女に、男が触れると穢《けが》れであるとして、信仰的に忌まれたものでした。只今でも、漁師などには信じて居る者があるやうです。此は宗教上の罪悪と見做すのが、ほんとうなのです。精通期を越した女には、漠然とながら、男に会ふ事を黙認してゐたのが、近世までの久しい風習でありました。此からは村の娘といふ共有観念を、村の成年式をあげた若い男が持つ様になるのです。
で、愈きまつた亭主を有つ場合は、婚姻の試みを受けました。初夜に処女に会ふのは、神のする神聖な行事でありまし
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