は又、溯源的に時代を逆に見てゆく処も交つてゐる。これは、民俗学の方法である。同時に、文芸の歴史を見るには、此順逆両途を交々用ゐねばならない場合が多い。
時として、私の叙述が、年代を疎かにしてゐる様に見える事がある。これ亦、民俗学と歴史との違ひである。民間伝承においては、土地と時間とを超越した事象が、屡見られる。殊に、全体としては、百年・千年前に亡びたものが、一地方には保持せられてゐることが、稀ではない。かうした伝承が、古代生活の説明に役立つ。文学や、芸能の発生展開の過程も、地方と時代とに相応することもあるが、其影響を離れて、個々の特殊の形に残る事が、とりわけ多い。此等の遺存を綜合しながらの叙述である為、勢《いきほひ》、時代・年月の印象が薄くなる事もある。曲舞を論ずれば、幸若から逆推して、白拍子の女舞の形態を説く事が便利な事もある。千秋万歳の曲舞から、幸若が分化した道程を示す為には、唱門師の職掌・地位を言はねばならぬ。更に、唱門師と陰陽師との交錯状態をも述べねばならぬ。踏歌のことほぎ[#「ことほぎ」に傍線]を説かねば、千秋万歳の芸能の一因の解決がつかぬ。均しく曲舞というても、時代によつて
前へ
次へ
全38ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング