ろ三の形を採るのが適当であらう。しかしながら、三の考と雖も形式文としては成立つけれども、実際にはわざ/\そんな馬鹿な想像を廻らす必要はない。定家卿も、恐らくそんな非常識なことを歌つたのではあるまい。一の如きも、成程一応の理窟は通つて居るが、君と明かに主格を指定した理由を知るに苦しむ。自分の心が君を待つことは、即、いひかへれば君が自分をして待たしめるのである。
同様のあらはし方は、随処にこれを見ることが出来る。けれども、このいひ方が、大体非常に余裕のあるいひ方なので、純然たる自己の心の批評である。果してかういふやり方が、この歌の全体の色調に調和して居るか、かういふ場合に、何故に率直に自分の心を疑ふといふ立場を取らないのであらうか。強ひて不調和を犯してまでも、かゝる表現法を取る必要はあるまい。非常識ないひ方であるといはなければならぬ。これ亦作者の意ではなからう。
この歌は、雲の色を誰が夕ぐれと君頼むらむといふ、形体的内容を有して居る。けれども、綜合したる内容の上には、さしたる影響もないが、韻文としては、非常の用意が窺はれる。試に、「雲の色に」として見ると、下の句との区劃が非常に明瞭になる。
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