るであらうとながめて居る。しかしながら、他にまた君のかよふところがあつて、誰かゞ我夕ぐれと心頼みに君を待つて居るだらうかといふことになる。これは「誰が夕ぐれ」を、誰が方へ行く夕ぐれの摘象文と見ずして、「誰が」と「夕ぐれ」とを離して、「夕ぐれ」を我夕ぐれなりの摘象文、即「誰が」を「頼むらむ」の主格とした場合である。
また「頼むらむ」の釈き方によつては、聊か変つた方面がある。それは、下二段に働く「頼む」で、頼ませるといふ意に解するのであるが、さすれば、君といふ語の格が変つて主格となる。
この釈き方は、上の句の意を三様にかへてもつゞく。
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一、君はもはやおいでになるまいと思へる夕ぐれに、何とて彼の君は「今宵は誰が夕ぐれならむ 我方に来ますべきか」と頼ましむるのであらう。
二、君が再び(は[#「は」に傍点]を反語とは見ず)おいでにならうと心待ちの夕ぐれに、誰が夕ぐれであらうと頼ませるのだらう。
三、かうして居れば、或はおいでになるかも知れぬと待つ夕ぐれに、君は誰が夕ぐれと頼ませるのであらう。
[#ここで字下げ終わり]
即、二と三とは、殆ど同一である。寧
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