それで、思想を伝へるには、或は便利であるかも知れんが、このところは、明瞭に、思想上の区別はつけておいて、形式の上では、「頼むらむ」に続くやうにする必要があるのである(勿論こゝのを[#「を」に白丸傍点]は、意味は極めて軽いが、古く行はれたよ[#「よ」に傍点]に代はる用法のを[#「を」に白丸傍点]があるから、多少その軽いところを含めたものと見てもよいが、形体的内容に於て、賓格の扱を、雲の色に与へて居るといふことは否むべからざる事実である)。
雲の色をといふ語は、実際不即不離の状態にあるもので、形式はともかく、上二句にも下二句にも、思想上明かに連続はして居ない。しかも、この語なくしては、この歌の価値を減ずること大なるものである。なにも、必ずしも、明瞭に接続する文章が理想的のものとはいはれない。たゆたふ心の有様をあらはすためには、かういふ思想上に聯絡なき語が形式によつて纔かに繋れて居る緩慢な句を据ゑることも、一方である。定家卿の幽玄体と称する歌には、まゝ象徴詩的のものがあることは、業に述べたが、この雲の色を[#「を」に傍点]の語の如きは、部分的に夕雲を借つて来て、心的状態をあらはし、又形式の上
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