・消極の両方面がある。嫌悪の情を表す場合が相当にあつたのを、文章語の上では次第に忘却して行つた。さうして積極的とも言ふべき愈益《イヨヽヽマスヽヽ》と同義の方面に進んで行く中に、古典語となつてしまつて、主として漢籍に固定した訓法ばかりに用ゐられるやうになつた。さうして、ウタヽ以外に、あつた形のことなどは忘られてしまつた。此が今日も尚多くの場合意味不明な訓読法の一つとして、漢文の訳読に残つた転の字の訓なのである。
ところが一方、同一の語であつて、書き物には寧其よりも古く、形が見えて居り、後に音韻分化によつて、うたゝ[#「うたゝ」に傍線]を派出したと思はれるうたて[#「うたて」に傍線]がある。うたて[#「うたて」に傍線]がまづあり、後に至つて、うたて[#「うたて」に傍線]・うたゝ[#「うたゝ」に傍線]並行せられ、其が又岐れて、うたゝ[#「うたゝ」に傍線]は漢文訳語に附属して、古典語化して残存し、うたて[#「うたて」に傍線]は、律文・散文に通じて用ゐられ、後長く口語の上に保存せられて、方言には今も遣ふ地方がある、と謂つた風に、別々の道を通つて来てゐる。方言うたて[#「うたて」に傍線]は、うたて
前へ
次へ
全16ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング