、磯良の出現によつて、此儀式の始まつた元の記憶だけは、止めて居たと見られる。原意は、既に忘却を重ねた後にまでも、尚、此を繰り返して居たのである。阿知女を鈿女《うずめ》だとする説もあるが、阿知女・阿度女は、海人《アマ》の宰領である、安曇《アヅミ》氏の事でなければならない。磯良が、海底を支配する海人《アマ》の神だ、と言ふ伝説の意味も、それで訣る。
私の考へ方としては、海の神の信仰が山の神の信仰に移つたとするのであるから、譬ひ磯良の信仰には、更に、山の大人《オホビト》の考へをば、反映して居るとしても、根本的には、古いものと見られる。

     四 くゞつ[#「くゞつ」に傍線]と人形との関係

民間信仰・民俗芸術の上の諸相は、単純化の容易に行はれるものではない。けれども、仮りに、簡単な形を考へて見るとしたら、才《サイ》の男《ヲ》は、海系統のもの、大人《オホビト》は山系統のものと見てよいであらう。でも、此二つは、元はやはり、一つ考へのものでなければならない。
この才の男の末が、二つに分れて、一つは、傀儡子の手に移つて、てくゞつ[#「てくゞつ」に傍線]から、次第々々に、木偶《デク》人形となつた。
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