迎へ人形であるから、元来は海底の神が精霊である訣だが、この場合には、お迎へ人形の方が、精霊の位置に変る。併し、更に考へて見ると、海底の精霊と言ふのが、実は、嘗ては、他界から来る権威ある神であつたのだ。又、さうした事は、逆にも行はれて居る。宇佐八幡に対すると、志賀[#(ノ)]島の海底神は、精霊の大なるもの、と言ふ事になるのである。
此から、阿度目《アドメ》[#(ノ)]磯良《イソラ》――後に人と考へる様になつて、磯良丸とも言ふ――を考へる様になつた。磯良は、海底を支配する海人の神だ、と言はれて居る。此名に関係のあるものでは、神楽歌に磯良前《イソラガサキ》がある。「いせじまやあまのとねらがたくほのけいそらがさきに云々」と言ふので、此歌だけで見ると、阿度目[#(ノ)]磯良と、別に関係はない様であるが、元はあつたに相違ない。
神楽の最初に「阿知女々々々於々々《アヂメアヂメオヽヽ》」とある阿知女作法と言ふのは、太平記が伝へる名高い伝説でも、想像が出来る様に、「阿知女々々々」は磯良を呼ぶので、「於々々」は磯良の返答である。或は、人長と才の男と言うた様な対立で、演じたものであつたかも知れない。とにかく
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