もないが、其を巫女が遊ばせる――舞はせる――ことが、一つの条件であつたとだけは、考へる事が出来る。この点からならば、尠くも、一つの論が、進められない事もない。にこらい・ねふすきい[#「にこらい・ねふすきい」に傍線]氏が、磐城平で採集して来られたおひら[#「おひら」に傍線]様の祭文と称するものを見ると、此は或時代に、上方地方で、やゝ完全な形に成立した、簡単な戯曲が、人形の遊びの条件として行はれて居た事が察せられる。即、これはおひら[#「おひら」に傍線]様の前世の物語で、本地物語とも言ふべきものが、随伴して居つた訣である。

     一四 おひら[#「おひら」に傍線]様と大宮の※[#「口+羊」、第3水準1−15−1]祭りと

今日、おひら[#「おひら」に傍線]様の分布は、必しも東北ばかりでない。十数年以来採訪せられた材料から見ると、曾ては都方から東へ向けて、神明信仰に附随した伴神の信仰の、宣伝せられた跡が窺はれる。だが、おひら[#「おひら」に傍線]様が注意に上つた時代に於いては、既に巫女が箱に入れて歩く風習を失うて了うて居た。だから此を、人形芝居の旅興行の形に関聯して考へる事は、困難な事
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