遥かに時代の離れた戦国以後の材料とをつき合せて、其間の連絡をつけるより為方がないほど、中間が空白になつて居る。だが、旧来の考への様に、人形芝居は、西の宮・淡路の芸能人によつて始まつた、などゝは言へない事である。其間のつなぎには、百太夫――漢文式に表現して百神とも――と称するものが実在する。
此民の持つて歩いた人形と言ふのは、恐らく、もと小さなものであつて、旅行用具の中に納めて、携帯する事が出来たのだと思ふ。さうした霊物を入れる神聖な容器が、所謂、莎草《クヾ》で編んだくゞつこ[#「くゞつこ」に傍線]であつたのだらう。さう考へて見ると、此言葉の語原にも、見当がつく。くゞつ[#「くゞつ」に傍線]は、くゞつこ[#「くゞつこ」に傍線]・くゞつと[#「くゞつと」に傍線]の語尾脱略ではないだらうか。恰も、山の神人の後と考へてよいほかひゞと[#「ほかひゞと」に傍線]の持つ行器が、神聖なほかゐ[#「ほかゐ」に傍線]である様に、海の神人の持つ神聖な袋が、くゞつこ[#「くゞつこ」に傍線]であり、其に納まるものが、霊なるくゞつ[#「くゞつ」に傍線]人形《ヒトガタ》であつたのだらう。でく[#「でく」に傍線]、或
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