判断に「おつかなびつくり」を用ゐぬらしい、大戯作者は、実に潔く、「出ますとも」と承引して下された。此事に関しては、その直後、私の師柳田先生から、とてもひどくお叱りを受けたものであるが、――私並びに私に唆かされた泉さんの軽はずみを、御自身の身にひきつけて悔いるやうなお気持ちで、お咎めになつたことは、其時其場に感じ乍ら、先生の教誨の前に頭をさげて居た私であつた。
併し其時の泉さんと私とは、実に気持ちよく話しあうたものである。十数年以来、何処へでも同伴して行く習慣になつて居る家の春洋なども、単に金沢に少年時を育つたといふだけで、其はほのぼのとした愛情を持つた表情で、始中終顧み/\話してやつて頂いた。
泉さんの持論の黄昏時の感覚と、其から妖怪の怨恨によらぬ出現の正しさ――かう言ふ表し方は、泉花さんの厭ふ所でありさうだ。――を主張する情熱と言ふよりは、別の熱を持つた話になつて来た。自分の職に絡んだことに話が向いて来ると、竪板に水と謂つた風に、流動して来た表現力、寧却て信頼をはぐらかしさうなまでの雄弁で、――今も手にとつて見る様に思ひ浮ぶ話しぶりで話された。
実は其時、甚申し訣ないことだが、稲生武
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