うよ/\として出て来たのである。
此時、何の理由もなしに、泉鏡花さんと、稲生武大夫《イナフブダイフ》とが一処になつて、どつと私の前におし寄せる波のやうなものに乗つて出て来たものである。
今思ふと、武大夫が泉さんと因縁を持つてゐることは説明するまでもないことである。が、私には訣があつた。――其よりも、その際は、真に雲を掴むやうに鏡花小史と稲亭主人を一緒にして呑みこんだことだつた。此二人を、怪談作家と武辺者といふ感じでうけ入れたのではなかつた。ひとしく彼侏儒であり、小悪魔として接したものゝやうである。
話の腰を折ることになるが、――尤、腰が折れて困るといふ程の大した此話でもないが――昔の戯作者の「閑話休題」でかたづけて行つた部分は、いつも本題よりも重要焦点になつてゐる傾きがあつた様に、此なども、どちらがどちらだか訣らぬ焦点を逸したものである。泉さん御自身が、常半ば戯作者を以て任じておいでだつたことも、こんな「入れ事咄」には、意味を持つて来るのである。
――泉さんを二番町のお宅にお訪ねしたのは、お亡くなりになるやつと二月前位だつたらう。大学の夏期講習に引き出しに行つたのだが、――大して物事の
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