て[#「はたらいて」に傍点]居るのである。其がつくり来る瞬間は、何だか意識が薄れてゐる時に起つてゐるやうなことに気がつき出した。気を張つて歩いてゐると、股から下にぶらさがつた――侏儒のやうな肉体が、上体の命令に反かうともせぬのであつた。だが、上体全体に、まるで、此晩街路に立ち籠めてゐた冷えた靄のやうに、すつと来て掩ひかぶさつて来る無意識感といふものが、もう/\頻繁に襲ひかゝつて来る。
こんな気がして居たものである。上体をこの靄が立ちこめてしまつたら、脚の侏儒が全く間断なく跋扈しはじめるだらう。さうすると、全身はどうなつて行くのだらう。
此も癖で、降つても照つても持つて歩いてゐる蝙蝠傘を、此時ばかり杖にして歩いて居た私は、靄を塞きとめ侏儒を拒みつゞけながら、ふつと立ちどまつて見た。さうするとさつと靄がきれた。侏儒も何処かへ逃げこんだらしい、さはやかな瞬間を感じた。
道はたるい[#「たるい」に傍点]阪道になつて、近年亡くなつた老功臣の家の塀に添うて登つて行く。何といふ情ない幻影か、其人の長過ぎた面長の顔が、脚の侏儒の頭部にかぶさつて、私の下体から、湧き出るやうに無数の蠕くものになつて、実に
前へ
次へ
全8ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング