「いなう」に傍線]と言ふものになつて居る。此は、あいぬ[#「あいぬ」に傍線]在来のものでなく、日本の稲穂の信仰様式があいぬ[#「あいぬ」に傍線]へ這入つたものであらう。いなう[#「いなう」に傍線]は、日本の御幣の如きものであるが、御幣ではない。甲州ではあぼ[#「あぼ」に傍線]・へぼ[#「へぼ」に傍線]と言ふが、粟穂・稗穂等と言ふ意味であらう。削りぐあひで、色々あるのだ。稲穂は其一種である。此があいぬ[#「あいぬ」に傍線]へ這入つて行つたのは、近代の事ではない。
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筑波嶺に雪かも降らる。否諾《イナヲ》かも。愛《カナ》しき児等《コロ》が布《ニヌ》乾《ホ》さるかも(巻十四)
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といふ歌が、万葉集の東歌の中にある。あいぬ[#「あいぬ」に傍線]の木幣《イナウ》を知つて居る学者は、木幣《イナウ》と信じて、此歌をもつて、あいぬ[#「あいぬ」に傍線]が此附近に住んで居た証とするが、此は勿論さうではない。
削り花は早くからある。古今集巻十の「物名《モノヽナ》」の籠め題に「二条后の東宮の御やすん所と申しける時に、めど[#「めど」に傍線]にけづり花[#「けづり花
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