#「だめ」に傍点]である、と言ふのである。一番最初に花と言ふのは、花の咲いて居るものではなく、先触れにうら[#「うら」に傍線]・ほ[#「ほ」に傍線]として出て来るもので、先触れの木である。咲く花でない証拠には、花の木[#「花の木」に傍線]と言ふものがある。此は、一種の匂ひの高い木で、花ではなく、樒などが用ゐられた。
樒の花は、問題になる程目につく花ではなく、榊に近いものである。何かの前兆になる神の木で、榊の一種類であつた。昔、問題にされた木には、却つて、花の咲かないものが多く、咲く花のみに、捉はれはしなかつた。古く、花と言ふ語は、最多く副詞になつて現れてゐる。物の先触れと言ふ処から、空虚なものに使用せられる、浮いた言葉なのである。
秋の花の中には、秋の七草がある。此に対して、春の七草もある。春の七草は、近世では禁厭《まじな》ひの物である。秋の七草は、禁厭ひの意味は何も訣らぬが、鑑賞目的の為にのみ数へあげられたとばかりは、考へられないものがある。此点はまだ考へられない。
木や木の花を式に使ふ事は、魂を鎮める為と、予め今年一年の農作の結果を前触れする為の象徴に使用するのと、二様ある。鎮魂の
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