四月八日を中心とした此日は、普通「山籠り」の日と言うて居る。此日、村の娘が五月処女《サウトメ》としての資格を得るのである。そうとめ[#「そうとめ」に傍線]と音便で呼ばれる語形さをとめ[#「さをとめ」に傍線]の結合は、近世では出来ない結合である。処女《ヲトメ》は神事に仕へる女、と言ふ事である。をとこ[#「をとこ」に傍線]も神事に仕へる男の意である。処女が花を摘みに行つて、花をかざして来る事は、神聖な資格を得た事であつて、此時に「成女戒」が授けられる。此は一年の中、二度か三度行はれたが、もとは一度であつて、男を避けて暮すのが習慣である。
処女が其資格を得ようとする徴《シルシ》に花かざし[#「花かざし」に傍線]をする。躑躅が用ゐられた。一種の山蔓《ヤマカヅラ》である。こゝに何か秘密な行事があるので、其時に花をさしたと言ふ事が、成女戒を授けられた事になる。此は毎年生れかはる形であるので、毎年受けるものなのだが、一生の中に、二度うける様にもなつた。だが、昔は、事実はおなじ女性がつとめても、毎年別の人が生《ア》れ出て来ると信じて居た。
男は五歳から十歳頃までに袴着《ハカマギ》を行ひ、女は裳着《モギ
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