が山から帰つて来る際に、躑躅の花を持つて来るが、此と関係がある事を指摘された。其為に、私の考へは変つて来たのであつた。

     四

女の物忌みとして、田を植ゑる五月処女《サウトメ》を選定する行事は、卯月の中頃のある一日に「山籠り」として行はれる。さうして、山から下りる時には、躑躅の花をかざして来る。山籠りは、処女が一日山に籠つて、ある資格を得て来るのが本義である。けれども、後には、此が忘れられて、山に行き、野に行きして、一日籠つて来るのは、たゞの山遊び・野遊びになつてしまうた。「山行き」といふ言葉は、山籠りのなごりである。かうして山籠りは、一種の春の行楽になつて了うたが、昔は全村の女が村を離れて、山籠りをした。即、皐月の田植ゑ前に、五月処女《サウトメ》を定める為の山籠りをしたのである。
此山籠りの帰りに、処女たちは、山の躑躅を、頭に挿頭《カザ》して来る。此が田の神に奉仕する女だと言ふ徴《シルシ》である。そして此からまた厳重な物忌みの生活が始まるのである。此かざし[#「かざし」に傍点]の花は、家の神棚に供へる事もあり、田に立てる事にもなつた。此が一種の成り物の前兆になるのである。

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