を追ひやるのである。初春に杖をもつて、まづ地面を打つて置き、いよ/\田の行事にかゝる四月になると、復此行事を繰り返す。即、も一度田の行事をするのである。此為、卯月と言ふのだとするのが、私の仮説である。
卯月に咲く山の花なる卯の花は、空木《ウツギ》の花だと言ふ説もあるが、たま/\卯の花を空木の花であると言ふのには、原因があるのである。卯杖《ウヅヱ》・卯槌《ウヅチ》を空木で作り、そして、空木は鬼やらひ[#「鬼やらひ」に傍線]に用ゐる木なのである。即、卯の花が占ひの象徴になつて居ると思ふ。卯の花が早く腐ると困る処から、卯の花くたし[#「卯の花くたし」に傍線]と言ふ名が、雨にまで附けられたのである。卯の花の咲く時分に、長雨が降る。卯の花を腐らせる雨に、気を病んで居る人々が作つた詞である。
これからは、幾らでも、象徴の花が出て来る。卯月に入ると、女達の物忌みが始まる。此事は、柳田国男先生が、最初に注意された。私が、躑躅の花を竿の先につけて外に出す習慣の行はれて居る四月八日の、てんたうばな[#「てんたうばな」に傍線](天道花)の由来を書いた時に、柳田先生は、此時に女の山籠りの習慣があつて、此女たち
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