咲き、皐月が咲く。卯の花は、卯月に咲くから卯の花だと言はれて居る。此説には私は少し疑ひを持つて居たが、近頃では却つて、此考へに同情して来た。卯月と卯の花とは関係があると思ふ。此 ut は、何か農村の呪法に関係がある様だ。私は卯月と言ふ月は、此と月と結合して出来た語であり、卯の花の u と ut とは同じものと見て居る。
正月に使用するうづゑ[#「うづゑ」に傍線](卯杖)・うづち[#「うづち」に傍線](卯槌)などゝ言ふものがある。形は支那から来て居るが、其元の信仰は日本のものである。うつ[#「うつ」に傍線]には、意味がある。捨てる[#「捨てる」に傍線]も「うつ」である。うつちやる[#「うつちやる」に傍線]・なげうつ[#「なげうつ」に傍線]も、捨てる[#「捨てる」に傍線]事である。古い処では「うつ」は、放擲すると言ふ事に使用されて居る。だから、私は、卯杖・卯槌は、地べたのものを追ひ払ふ為に、たゝくものだと考へて居る。土を敲くのは、土の精霊を呼び醒す事であり、土地の精霊を追ひ払ふ事とも考へて居た。
十月の卯の日に玄猪の行事をする。土龍《モグラ》を嚇すと言ふのは後の附会で、地中に潜んで居る精霊
前へ
次へ
全38ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング