上の条件として必行ふべき饗宴があつたことを暗示してゐるからである。
あるじ[#「あるじ」に傍線]と言ふ語は、饗応の義から出て、饗応の当事者に及んだのである。家長の資格は、客ぶるまひを催す責任の負担から出てゐる。饗宴は、家族生活の第一義だつた。神聖な食器の保存に注意を払ふ風は、時代が遷つても、変らなかつた。唯食器にも、推移があつた。どうしても、伝来の物の代りに、近代のを用ゐねばならぬ様になつて行つた。其誘因としては、壊れたり、紛失したりする事と、伝統的な器具を持たぬ新しい家が、後から/\興つて来た事である。
客の数は、信仰の上から固定したものが多かつた。だから時代が変つても、多くは常に一定してゐた。一椀一皿が不足しても、完全な客ぶるまひは出来ない。食器の数を完備する事に苦労した印象は、新しい器を採用する様になつても残つてゐた。椀貸し穴の、椀を貸さなくなつた原因を、木具の紛失で説いたのも、此印象が去り難かつた為であらう。宴席に並んだ膳椀の数を見ても、一目に其家の富みが思はれる。此栄えは、農村経済の支配者なる水の神の加護によつて得たものである。木具の古びを見ても、此家の長い歴史が思はれる。何
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