ないが、尻きれとんぼうの「しおり」の欠けた姿が、久良岐《くらき》らの「へなぶり」の出発点をつくったことをうなずかせる。
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霜ふせぐ 菜畠の葉竹 早立てぬ。筑波嶺おろし 雁《がん》を吹くころ
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「しおり」は、若干あるが、俳句うつしの配合と季題趣味とがあり剰《あま》って居る。殊に岡麓氏の伝えられた子規自負の「がん」と言う訓《よ》み方なども、平明主義と共に、俳句式の修辞である。(又思う、かり[#「かり」に傍点]と訓むと、一味の哀愁が漂うような処のあるのを、気にしたのかも知れない。)何にしても、此歌は字義どおりの写生の出発点を見せているので、生命の暗示などは、問題にもなって居ないのだ。
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若松の芽だちの葉黄《みどり》 ながき日を 夕かたまけて、熱いでにけり
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本質的に見た短歌としては、ある点まで完成に近づいたものと言えよう。平明派であり、日常語感を重んじる作家としての子規である。古語の使用は、一種の変った味いの為の加薬に過ぎなかった。用語の上の享楽態度が、はっきり見えて居るのだ。弟子の左千夫の使うた古語
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