裏書きであります。此脇方――並びに狂言方の――翁一流の式に対する関係や、翁が最古式を保つてゐるとの信仰は、猿楽がわき芸[#「わき芸」に傍線]であつた事を、暗示してゐるのではないでせうか。田楽と違ふ点は、念仏踊りの要素を多く含んだ彼に対して、神事舞としての部分を重く見てゐる点にある、と言へます。
冬の鎮魂を主とし、春田打ちに関係の深いのが、猿楽の、呪師習合以前の姿なのです。田植ゑに臨む群行神の最古の印象は、記・紀のすさのをの命[#「すさのをの命」に傍線]の神話の外に、播磨風土記には統一のない形の、数多い説話として残つてゐます。此間に、常世人自身も、海の彼方から来ると信じられたものが、天から降ると考へられる様になり、山に住む巨人とせられる様にもなつて行きました。従つて、常世人と言ふ名も変り、其形貌性格や対人地位なども易つて行く一方には、原形に止り、或は、二つの形を複合した信仰も出て来ました。
我々の研究法は、経験を基調としたものであります。資料の採訪も、書斎の抜き書きも、皆、伝承の含む、ある昔の実感を誘ふ為に過ぎません。実感による人類史学と言ふべきものなのです。一芸能の翁に拘泥せず、田楽・
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