階級が一つ違うても、真に「稀人」の感じを持つだけの歓迎をした事でも知れる。
ある種類のまれびと[#「まれびと」に傍線]以外には、人の家を訪ふ事は、其家のあるじ[#「あるじ」に傍線]を拝する事になつたからである。天子、功臣の家に望まれる様な事は、奈良の世にもあるが、其は外戚として親等が高い場合か、おとづれる神即まれびとの資格を以て臨まれたかである。幾分、天子神秘観がへつたところへ、支那風の臣屋臨御の風を知つて、自由な気分が兆して居た為もあらう。其が権臣の第宅の宴会へのみゆきであつた場合は、明らかに神の資格でおとづれた古風なのである。だから、空漠たる天子或は、貴種の人の民間に流離し、又一宿を村家に求めたなど言ふ民譚は、神の物語の人間に飜訳せられたに過ぎないのである。
貴人が、臣の家に臨むを迎へる為と見える饗宴は、実は中間に饗宴を行ふ条件として、珍客を横座に据ゑる必要の心に持たれてゐた時代を経てゐるのである。さうして、初の姿に還つて、迎へる為の宴と考へられる様になつたのだが、本意は既に変じてゐた。おとづれる神としての考へは、すつかりなくなつた。真に賓客としての待遇法が具つて来た。武家の形づく
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