神を祭る夜に忍び男の来る事かと言ふのである。が此とて、実情でなく、さうした境遇に切ない情を抱く女を空想した一種の叙事的な民謡で、純な抒情詩ではない。而も、明らかに戸を押ぶる者は、まれびと[#「まれびと」に傍線]の変形であり、その愛しきと言ふのも、おとづれる神を恋愛にうつして歌うたものと見るべきである。家々に宿るまれびと[#「まれびと」に傍線]の為に、其に仕へる家の処女又は主婦一人残つて、皆家を出て居る。まれびと[#「まれびと」に傍線]の為にする物忌みが一転して、まれびと[#「まれびと」に傍線]と母神とを別々に考へる様な形をとるのである。而も、東歌が恋愛の境地に入れてゐるのは、此夜家々に泊るまれびとに一夜夫《ヒトヨヅマ》としての待遇をする事があつた為であらう。一夜づまは決して遊女ではない。「我が門に、千鳥|頻《シバ》鳴く。起きよ/\。わが一夜づま。人に知らゆな(万葉)」の我が門とあるのは、家の処女か主婦の位置を示すものである。信仰上ある一夜のみ許されたまれびと[#「まれびと」に傍線]の宿りが、まれびと[#「まれびと」に傍線]を人と知つた時代にも続いてゐた為に、一夜づまと言ふ語が出来たので
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