年に一度、暮れ或は正月になると、どこからともなく出て来て、或特定の村、即、檀那村を祝福して歩いては、またどこへともなく帰つて行く。「隠れ里」の伝説はこれから起つたので、更に「隠れ座頭」などの嘘噺も出来、又、偶然山奥へ迷ひ込んだものゝ中には、此等の芸人村のあることを発見して、山伏し以上の法螺を吹いたものもあつたりしたのであつたが、要するに、隠れ里の伝説が、単なる伝説上のものでなかつた事だけは考へられるのである。
此も「翁の発生」で触れて置いたことだが、芸人の団体には、山奥のものと、更にもう一つ、海の岬に根拠を置いて海道を歩いた、くゞつ[#「くゞつ」に傍線]との二者があつた。併し、近世では、かうした芸人は、山奥のものに限られた。そして、此が本筋の山伏しだつたのであるが、鎌倉以後、戦国時代には、此をまねた、或は彼等の群に投じたにせ[#「にせ」に傍線]山伏しが横行するやうになつたので、此等のものが諸所の豪族の家々を頼つて、海道筋を上り下りし、其等の家々にとり入り、遂には、其にとつて替らうとさへしたのであつた。
七 すり[#「すり」に傍線]・すつぱ[#「すつぱ」に傍線]・らつぱ[#「
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